イスラエルのスタートアップ最前線(3)UVeye
ビッグデータ関連のビジネスを進める魅力的なスタートアップをご紹介するシリーズも、今回で第3弾。
これまで取り上げてきたSimilarWebやOtonomoは、それぞれのインターフェースから取得したデータを「活用する」部分に注目した事業やサービスを展開している。「ビッグデータの活用」としては王道で、大体の人がイメージするようなビジネスの範囲ではないかと思う。
その意味では、今日ご紹介するスタートアップは少し変わり種と言えるかもしれない。ビッグデータの手前の「データ化する」ということ自体に着目しているからだ。
UVeyeという自動車の危険物搭載検知とデータ化を実現したスタートアップである。
自動車の異常検知を3D画像で可視化する、UVeye
UVeye社は2016年に設立された、エンジニア出身のHever兄弟が経営するスタートアップだ。
彼らの商材は自動車の危険物・異物の搭載を可視化しデータ化する技術である。
仕組みは簡単。専用のスキャナーを道路に埋め込み、その上を通過した自動車の内部映像を3D画像化するのだ。データ化に必要なのは約3秒。そして、フルカラーでデータ化したその内部映像はクラウドに保存されている。
最近はヨーロッパでもテロが頻繁に起こるようになったが、もともと中近東やアメリカでは車を使ったテロや危険行為は多数発生していることから、警備的な意味合いでデータ検知するために作られたという。
すでに、イスラエル、ロシア、ケニア、コンゴ、中国などで導入実績があり、政府系機関や大使館が使用しているそうだ。
今年の7月には4.5Mの調達にも成功しているという注目株である。※参考記事
UVeyeの特徴とは
百聞は一見にしかず。ぜひ、動画を見ていただきたい。
この動画をご覧いただければ、コンセプトやその技術の概要は十分にご理解いただけると思う。
……さて、彼らのビジネスの特徴とは何だろうか。実はスキャナーを開発する会社は多数ある。
体の内部をスキャンする技術など、各分野で高度な技術が発達しているが、なかでも彼らの特徴は自動車に特化していることとデータ化にこだわっている点である。
セキュリティ強化のためにデータの可視化にこだわり、技術を高めてきた。正直、フルカラーの3D画像の完成度は素晴らしく、初めて見たときには驚きでワクワクした。何せスキャナーの上を通過した車が、ものの3秒で丸裸になるのである。
違和感がある場合には、自動車メーカーの内臓データと照らし合わせることによって、その正体を明らかにすることもできる。爆発物や薬物といった人の目でぱっと見ではわからないような「異常」の検知を追求しているのだ。対象はUSBサイズ程度の大きさまで十分に追えるそうだ。
今後のさらなる飛躍を期待されるUVeyeの魅力
基本的な位置づけとしては「自動車における異常を検知する」というシンプルなものだが、これから活躍の場は大いに広がるだろう。
冒頭で触れたとおり、現在はまだデータを作る部分に集約されているからだ。
それを誰がどのように使うか、という点でまだまだ無限の可能性を秘めている。
利用可能性1:治安や警備活動の向上
まずデータをクラウド上で保存しているため、UVeyeで検知した危険な車の情報は、複数のユーザーや端末で共有できる。
この重要な情報を共有できれば、政府機関の治安や法人の警備活動に大いに貢献することになる。
治安の良い日本ではテロ活動の危険と言われてもピンとこないかもしれないが、現実に車を使った事件は世界のあちこちで起きている。プロダクトが出自を思えば、世界のさらなる治安改善を実現できるよう、セキュリティ事業や行政サービスとうまく手を組んでほしいところだ。
利用可能性2:自動車整備の省力化の実現
ほかには、車の物理的な破損や磨耗の発見をデータの突合だけで発見できるようになる、と言ったことも十分考えられる。
車のメンテナンスに全て整備士が手作業を加えなくても、データの突合で劣化や修復が必要な部分を抽出することができたら生産性の向上に一役買えるのではないか。
不要なコストを削減し、人手をかける部分を集中させることは、多くの企業に歓迎される提案であろう。
彼らの魅力について
思い浮かぶ簡単な例について触れたが、おそらくここで得たデータが生きる分野はほかにもたくさん存在するだろう。
何と言っても、可能性あふれるスタートアップである。
起業して1年で世界各国に実績を作り、5億円もの調達も受けている(※参考記事)というそのスピード感は圧倒的だ。
しかし彼らの技術者、経営者としての力量はもちろんだが、私は彼らとビジネスで一緒に行動していて特に感じるのは「ひたむきさ」だったりする。
最後に、それを象徴するエピソードを一つ。
彼らが来日して一緒に夕食を食べに行ったときのことである。
週末前だったので、てっきり食後は飲みに一緒に繰り出すだろうと思っていたのだが、彼らは夕食後に宿泊しているホテルの地下駐車場で仕事の事前準備を始めたのだ。すべては翌日に控えた実証プレゼンのためである。そしてテストを繰り返すうちに、ほぼ徹夜になってしまった。
笑い話のようだが、真夜中に外国人が見慣れない機材を出して何かをしている、と警備員に怪しまれたほどだ。
写真を撮っていたのでご参考に ※車の前方にあるのがスキャナである
その一生懸命な姿には、ビジネスにかける真剣さと自分たちのプロダクトへの愛情が溢れていた。すっかり私は彼らのファンになってしまった。
彼らの成功と、彼らがまた1年後に作り出す未来を楽しみにしている。
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