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2014年10月。いざ、イスラエルへ【イスラエルとの縁 -2-】


表に出たがらないイスラエルスタートアップ

今日はイスラエルへ行くことになった2014年10月の話を中心にしたいと思う。

ただ、この先のストーリーを語る前に、イスラエルスタートアップの重要な特徴について触れさせていただきたい。イスラエルのエッジが利いたスタートアップやアントプレナーは、意外にも表に出るのを嫌がるということだ。

日本だと成功して名前を上げてパブリシティーを得るというのはIT起業家の醍醐味のような気がするが、それが完全に真逆なのである。よほどのことがない限り、ほいほい出てきたり話をしてくれる事はない。

一般的なカンファレンスなどのイベントも同じである。実際、タルモン含めたバイバーの創業メンバーはまさにそういった人達で、彼らがそういったものに顔を出すのを見たことがない。

しかし、私は今回ブログを書くにあたり、できる限り生の情報や具体的な話を提供したいと考え、彼らに協力を依頼した。ときに赤裸々な話を綴っているが、ブログに登場するバイバー創業者やその他のアントプレナー、スタートアップの人達からは、登場することについて事前に了承をもらった。

はじめは懸念を示されたものの、お前の力になるのならと言ってくれたのには心から感謝している。

カリスマ起業家の実力に魅了される

さて、10月に生まれて初めてイスラエルへ行くことになったのだが、バイバーのメンバーとはすでに面識があったため、全く見知らぬ土地に行く心細さというのはさほど感じなかった。

たまたま出立の日もタルモン氏と一緒だったため、なおさらである。

タルモン氏とは韓国の釜山経由でイスラエルに向かった。というのも、そのとき釜山で行われた国際通信事業連盟のイベントに彼が主賓として迎えられていたからである。

国際通信事業連盟は格式高い団体で、そのイベントには通信各社のトップや日本を含めた各国の大臣、開催地の釜山市長といったそうそうたるメンツが参加していた。私はいきなりの飛び入り参加で、タルモンからは何も趣旨などを聞かされていなかった。

「大丈夫、大丈夫」という彼の言葉を信じ、とりあえず同行した私は、このイベントがどれほど格式高いものかを会場入りして初めて知った。さらに、彼が主賓だということも知らなかったためかなり面食らったのだが、本人はいつものとおり何事もなかったかのように平然としていた。

公の場でタルモン氏のプレゼンを初めて見た私は圧倒された。この日のプレゼンはViberのCEOであるタルモン、Kakao Talk社のCEO、そしてLINEの親元でもあるNaver社のCEOによるパネルディスカッションだった。今となっては、この三社が同じステージに立つというのは考えられない。

そのとき、彼が醸し出していた雰囲気はカリスマそのものだった。バイバーの成り立ちや規制に対する意見など真面目な内容を語るさまは、普段のキャラクターと全く別人のようだった。改めてただものじゃないなと思わされた瞬間だった。

ただ、プレゼン資料が完成しておらず、舞台に立つ直前まで必死にイスラエルと連絡を取りながら作っていたため、イベント主催側を何人もやきもきさせていたのは覚えている。最後は本人が舞台裏にUSBディスクを持って直接設置しに行っていた。そばで見ていて不安になったが、プレゼンそのものは大したものであった。

そして彼は(いつものとおり)業界の大物や大臣といった権威に媚びなかった。ViberのCEOがこういった会合に出てくるのは珍しいため、多くの人が彼と接したがっていたが、話したい人とだけ話す。

もらって一番喜んでいた名刺は厳かな役職の名刺ではなく、仕事に直結しそうな企業の一担当者のものだったし、服装もいつも通りのシャツスタイルである。ちなみに懇親パーティーでは皆タキシードを着ていたため、タルモンにカジュアルで大丈夫だと言われてそのままで参加してしまった私は内心かなり焦った。

ゲストもみな、カジュアルな恰好をしたこの若造2人は何なんだという目で見ていたが、本人は全く気にしなかった。さらに社交パーティーの席順も彼は主賓席を嫌がり、さっさと末席へ移動してしまったものだから、主催側のスタッフは大慌てである。

なんてON/OFFがはっきりしているんだろうとほとほと感心したものだ。

最高法務責任者(General Counsel)として実務を開始

出向が決まった私に、バイバーの創業メンバーは喜びながらも大事なアドバイスをくれた。「イスラエルに来るにあたり、何をしに来るのか、役割とジョブディスクリプションをきちんと決めてからにしてくれ」と言われたのだ。

バイバーの主要メンバーと人間関係ができていたとはいえ、バイバーは300名規模の会社であった。当時日本側が想定していたChief Operating Officer(COO)、Chief Strategy Officer(CSO)といった肩書きを持っていても具体的な役割がないのでは遊びに来たようで見え方がよくない。

彼が私と当時の上司で副社長であった方にはっきりと言ってきたのは、「COOってなんだ?CSOってなんだ?何を具体的にやるんだ?そんなはっきりしない役職ならいらない」と言う事であった。

行くのを歓迎してくれてるんじゃなかったっけ?、と不思議に思うほど、かなり険しい顔で突っ込んできた。

ヘブライ語を喋れなければ、そしてプロダクトを分からなければ、業務に深く入り込んで現場と信頼関係を築くことは難しい。たしかに、せっかく出向しても社員に歓迎されず認められないのではハッピーじゃない。

人間関係がフラットで、ストレートにモノを言うイスラエル人の気質を理解しているが故の優しいアドバイスだったと思う。

上記に関連して少し補足すると、イスラエル人はつっけんどんに、年齢が上の人だろうが役職が上の人だろうが、What do you do?とはっきり聞いてくる。これには30秒程度で相手がはっきりと分かるように説明できないとならない。

これは社内・社外を問わず共通のことであり、その質問にはっきりと答えられないと、さらにずけずけと、What are you doing here then?と聞いてくる。全く悪気はないのだが、日本人の多くがこれに傷つけられたり、役職の高い方々が腹をたてたりするのを目にした。

以前のブログでも少し紹介したが、イスラエルに入るときには、目的や身元などのストーリーをしっかりと確立しておくことが大切である。今後、イスラエルへ人を送りたいと思っている企業の方は、そこをしっかりと考え、遂行するためにある程度の権限と裁量を与えないと大変だと思う。

私はといえば、幸運にも当時の上司がこの辺りをすごく理解してくれる方であったのと、タルモンが色々と事前に忠告してくれたために、こういった事に直面して気持ちが凹む経験をすることはなかった。

ただ、裏を返せばヒエラルキーがあまりないので、用件があればいつ誰をつかまえて話しても問題ないのである。社内・社外を問わず、また政府関係者の方々も同じであった。

当時の事に話を戻そう。

私は、自分が一番入りやすい業務ということで最高法務責任者(ジェネラルカウンセル)という役職で現地入りすることにした。バイバーの場合、扱うのはイスラエルの法律だけではなく、グローバルにそれを見られることが求められていた。

リーガルは法的思考能力を持っている事が重要なため、私がこの役職に就くことに対してはさほど違和感なく受けいれられた。そして、このOTTの世界は規制や法律が厳しい業界なため、法務という立場だと経営の舵取りに関われるというのも大きな理由だ。

これは成功だった。出向者としては極端な方だと思うが、2年半から3年ほどどっぷりとクロスボーダーの契約交渉、訴訟対応、M&Aや投資、特許や商標や著作権に絡む知財保護、個人情報保護、データやIPの移管、各国の通信規制やデータ保護法、会社法全般、労務、税務といった実務に携わった。

おかげでよくありがちな日本との窓口という形式的な役割ではなく、彼らと一緒にビジネスを進めていく仲間として認められ、反発を食らわずに済んだのだ。リーガルというのは営業、プロダクト、財務、特許など扱うR&Dなど全ファンクションと関わりを持ち、日々コミュニケーションを取る必要のある仕事である。

そのため全ファンクションの人間を知り、プロダクトを深く理解できるようになる。業務を通じて、会社の全部署の動きまで把握できるのである。それをもとに経営の意思決定に関わり、ときには違法・適法の判断のもと事業自体をコントロールすることができる。

立場の取り方によっては、ただの契約書チェックや訴訟などの手続き対応の役割に留まることなく、会社の経営の舵取りに大きく影響を与えるられるのである(米国のジェネラルカウンセルがまさにそのイメージだ)。

なので、私がWhat do you do?という質問を受けた時には、はっきりと、I am the General Counsel / Chief Legal Officer and also a spy for both sidesと答えることができ、それ以上に何か聞かれることは特になかった。

正直、私はあまり法律業務が好きではないのだが、こういう入り方をして本当に正解だったと思っている。その実感から、今後イスラエルへ人を送りこむ企業の方には、ジェネラルマネージメントではなくChief Legal Officer(最高法務責任者)やChief Financial Officer(最高財務責任者)として送り込むことをお勧めしたい。

また、これは別の機会に深堀りしようと思っているが、バイバーのジェネラルカウンセルとして、様々な法律分野で何十社ものイスラエルの法律事務所と付き合ってみた。

実際に現地で部下の弁護士と働くことで、イスラエルの法曹界や法律事務所の事情についてもよく理解することができた。(これに関しては今後M&Aや投資などをする日本企業の方のために参考になると思うので、もしこのあたりの詳しい話を聞きたいという会社や法律事務所の方がいたらJakoreへお問い合わせください

次回は2015年の初期、現地で働いている際に印象に残ったことを振り返りたいと思う。

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